かなさんの仲間通信~地産地消の輪
第10回 豊国屋 岡本 政広さん
私は、相模原市で酒販店を経営しております。昨今の酒類販売自由化の流れや消費者のライフスタイルの変化により、酒屋も各個人店が独自の物を打ち出さなければ生き残れない時代になりました。
以前から「食」に関心があった私は、日本各地に伝わる旨いものを集めては酒の肴として販売するなどしておりました。また、三人の子育てをする中で、安心して与えられる食べ物に目が行くようになり、なるべく地元で採れた物を食べる事が、一番理にかなっていて安全だという事もわかってきました。ある人は、できれば<方言>が伝わる範囲内の作物を、その土地に伝わる調理法で食べるのが最も望ましいのだと言います。
さらに、日本食そのものの素晴らしさも再発見し、中でも「発酵食品」に着目するようになりました。味噌・醤油・納豆・糠漬け…元々は日本の気候・風土から生まれた偶然の産物なのでしょうが、微生物の働きによって熟成・発酵した食品が保存性はもとより、より栄養価の高い食品となる事を日々の食生活の中から見い出した先人の知恵には改めて驚かされます。もちろん諸外国にも発酵食品はありますが、日本ほど独創性に富んだものを日常的に食してきた民族は少ないと言われています。
しかし、日本の食卓の現実はどうでしょう。朝食にごはん・味噌汁が並ぶ家庭は一体どれだけあるのでしょうか。食卓の流れは、簡易で高カロリーなものへと移行してしまいました。このままではいけない––––そう思った私は、かねてから商品化したかった「干し納豆」を手掛ける事にしました。実はこれ、私が尊敬する東京農大・小泉武夫名誉教授がいつもポケットに忍ばせ持ち歩いているモノです。発酵学の権威である師が、食文化研究のため諸外国を歴訪する際も、この干し納豆を常に食べていたおかげで一度も食あたりをした事がないと言います。何とも滋味のある味わい、乾燥していて保存性・携帯性にも秀れているので加工食品に向いています。また、かみ応えがあるので「咀嚼(そしゃく)の重要性」という観点からも、ぜひ子どものおやつとして伝えていきたいと思いました。そんな折り、たまたま新聞で「津久井在来大豆」の存在を知り、ぜひ地元の大豆で作ってみたいと思い早速食べてみました。するとびっくりする程おいしいのです!「津久井在来大豆」は他の大豆に比べ糖度が高いこと、またタンパク質・脂質がやや少なく豆腐等の加工には不向きだったため、あまり一般的に流通しなかったと言われています。しかし、この“甘い”というのは大きな魅力で、その後商品化したきな粉・煎り豆・蒸かし豆缶・テンペと、どれを取っても大変おいしいものとなりました。
私は現在、「食育」にも取り組んでいます。やはり日本人として生まれてきた以上、この素晴らしい食文化を一人でも多くの子ども達に伝えていきたいと思うからです。昨年は、FM横浜の番組とタイアップし、味噌作り教室を開催しました。特に未経験のお父さんと子どものペアを中心に行ったところ、大変好評でした。今年は、畑の種蒔きから始め味噌作りまでの工程を、約半年に渡り取り組んでいます。実際に畑に足を踏み入れた事のない子どもも多く、時に虫と戯れ、土に触れながら、子ども達自身が何かを感じ取ってくれれば、次につながるのではと考えています。
また、この津久井在来大豆の魅力を一人でも多くの方に知ってもらおうと、各地で開催されるイベントやデパートなどに出店し、宣伝活動にも努めています。
津久井在来大豆の可能性はまだまだあると思いますが、私はこの他にも魅力ある地元食材を発掘して、多くの人々が健康で楽しい人生を過ごせるよう、これからも食のサポートをしていきたいと思っています。
執筆者プロフィール
岡本 政広(オカモト マサヒロ)
昭和27年生まれ・B型
鎌倉学園高校卒業後、日本電子工学院で情報処理を学び、IT関連の会社に勤務。
その後、江ノ島にある実家の家業である釣り船店を手伝う傍ら、カジュアルウェアの店を開業。
結婚後、妻の実家の家業である酒販店「豊国屋」を引き継ぎ、現在に至る。
◆豊国屋ホームページ:https://www.toyokuniya.com/(外部サイト)